【マニア向け】「2つの三角形(分断の三角形)」、「投影の三角形」…葛藤の三角形のアレンジ応用バージョンについて
1.「2つの三角形(分断の三角形)」、「投影の三角形」…葛藤の三角形のアレンジ応用バージョンについて
僕は従来、短期力動療法やそこから発展した各種心理療法で用いられてきた葛藤の三角形は、
- 「個人の内面でも2つ存在することがある」
- 「2つの三角形のワークはパーツセラピーと相性が良い(実質的に同じことや似たことをしていることが多い)」
- 「2つの三角形のワークは内面でのカップルセラピーないし家族療法である」
という説を提唱したいと思います。
また、「外界が内界の反映である時」に使える「投影の三角形Triangle of Projection(TOP)」というものも考案しましたので、そちらも解説します。
2.短期力動療法の葛藤の三角形Triangle of conflict
従来、短期力動療法というセラピーでは防衛機制、不安、感情の3つのコーナーからなる逆三角形を「葛藤の三角形Triangle of conflict」と呼び、アセスメントに用いてきました。僕は特に現代のIntensive Short Term Dynamic Psychotherapy(ISTDP)のリーダーの一人であるジョン・フレドリクソン、Dynamic Emotion Focused Therapy(DEFT)の創始者スーザン・ウォーレン・ワールショウ、感情恐怖症のセラピーAffect Phobia Therapy(APT)で有名なリー・マッカローなどの理論家に大きな影響を受けました。
しかし、臨床でこれらの理論家を参考にしても、どうにもうまくいかない、そもそも「葛藤の三角形Triangle of conflict」にうまく当てはまらないクライエントさんや心理的な動きに遭遇したのでした。
そこで参考になるものはないかと探すうちに、内的家族システム療法Internal Family Systems(IFS)とジェイ・アーリーのセルフセラピーSelf Therapyの文献と彼の提唱したパターンシステムPattern Systemと出会います。
また個人的にも8年間で300回以上受けてきたセラピー・コーチングの中で、葛藤の三角形では説明のつかない心の動きに何度も出会いました。確実に効いている実感があるし、現実にも行動変容や認知の変容が起きて人間関係も人生そのものも好転しているのに、葛藤の三角形では説明がうまくできないのでした。この点が、パーツ心理学と出会ってかなりの程度説明された面がありました。
しかし、それでも僕の中では拭えないパーツ心理学の「使いにくさ」ないし「手に馴染まない感じ」が残っていたのでした。
3.パーツ心理学と2つの葛藤の三角形
そんな時に、僕は以下の6つの体験および学びから、葛藤の三角形を個人の内面に1つではなく2つあると仮定して介入するパターンも有効であると確信するようになりました。こちらの方が、ずっと精神分析やその他の心理力動的なセラピーに馴染みのあった僕にとってもより「手になじむ」感じがありましたし、パーツ心理学で説明されている現象ともうまくかみ合うように思えたのでした。
以下に、その6つの体験および学びをひとつずつご紹介します。
- 短期力動療法に基づいたカップルセラピーの理論
- パーツセラピーIFS
- オシモの体験的力動療法(Experiential Dynamic Psychotherapy)
- 男性性と女性性を扱うセラピーからの学び
- 自分自身のセラピー体験
- 自身の臨床経験での違和感
- 短期力動療法に基づいたカップルセラピーの理論
ジェイムス・ドノヴァンの提唱した「短期対象関係論カップルセラピーShort-Term Object Relations Couples Therapy」では、カップルの悪循環を葛藤の三角形を2つ使って見立てます。これは、ドノヴァンも指摘していることですが、スー・ジョンソンの感情焦点化療法の見立てと実質的には重なりがあります。
まず、彼の理論との出会いは衝撃的で、でも確かにそうだと思わせる説得力がありました。僕たちはクライエントの中に葛藤の三角形を見出しますが、そこに二人のクライエントがいれば、そこには葛藤の三角形も2つあることになります。
- オシモの体験的力動療法(Experiential Dynamic Psychotherapy)
そんなよく考えてみれば当然とも思えそうな発見の後、オシモらによる体験的力動療法の理論において、セラピスト側の葛藤の三角形と、クライエント側の葛藤の三角形が向かい合って描かれている図をふと目にします。これが二つ目のインスピレーションのタネとなりました。
- パーツセラピーIFS
パーツ心理学は、心の中のパーツと呼ばれるサブパーソナリティ同士の関係性を扱うことに長けています。僕が特に興味深かったのは、「プロテクターパーツ」と呼ばれる防衛を担当するパーツが「2つ以上存在することもある」と、さも当然のようにのべられていることでした。しかも、その防衛パーツ同士は「対立することがある」とされているのです。これは葛藤の三角形の見立てに限界を感じていた僕にとって、第三のインスピレーションのタネとなりました。「やっぱり、個人の中に防衛は1つではない時がある!ということは、葛藤の三角形も1つではなく2つ描いた方が適切なことがある!」というインスピレーションにつながっていくのです。
- 男性性と女性性を扱うセラピーやエネルギーワークからの学び
エリオット・サクスビーの著書『The Inner Marriage』は、男性性と女性性のバランスを調和させるセラピーについて詳しく論じています。他にもJay Earleyの提唱したパターンシステムも男性性と女性性とういワードを使っているわけではないものの、共通点があることを認めています。これらの理論は、ひとりの人の中には少なくとも二人のサブパーソナリティが存在しており、そのパーソナリティ間のコミュニケーションの改善と調和を目的としている点で共通していました。
また、僕自身のセラピストもエネルギーに注目した男性性と女性性の調和のワークに非常に長けた人で、実際にセッションを長年受け続けたことで血肉になった面がありました。
- 自分自身のセラピー体験
上で触れた僕自身が受け続けてきたセラピーでも、自分の心の中に「男性性パーツと女性性パーツ」が存在し、それぞれが防衛したり、不安や罪悪感を感じたり、素直な感情や願いをシェアし合ったりといった体験をたくさんしました。これは、まるで実際のカップルセラピーを見ているようだなと、ずっと感じてきました。これがさらなるインスピレーションのタネとなりました。つまり「内面でのカップルセラピーは実在する!」です。
- 自身の臨床経験での違和感
また、自分が葛藤の三角形を用いつつも、パーツ心理学にも影響を受けるうちに、クライエントさんたちとのセッションのやり方も自然と変わっていきました。その中で、1つではなく2つの葛藤の三角形を想定して介入したところ、目覚ましい効果が出た事例がたくさん出現し始めたのです。
以上の6つの体験および学びから、僕は「個人の内面には葛藤の三角形が2つ存在することがある。内面のカップルセラピーまたは家族療法のように扱うことで、葛藤の三角形を用いて臨床をしてきた力動的なセラピストも、その理論の枠内により収まりよくパーツ心理学を統合したうえで、パーツ心理学とよく似た癒しと統合のプロセスにクライエントを導くことが可能である。」と確信するようになりました。今では、この視点は僕の臨床に欠くことのできないものになっており、クライエントさん達からも深い納得感をいただくことが多いです。
従来は、個人の内面に適用されてきた葛藤の三角形が、実際のカップルのセラピーに応用されるようになって2つ使用さえるようになり、さらにそこから僕は着想を得て個人の内面に2つの三角形を適用するようになった…という流れがあると言えるのではと思います。
例えば、IFSやSelf Therapyでよく登場する内なる批判家とインナーディフェンダーないし火消人との対立は、2つの三角形を使うと次のように概念化することも可能です。
内なる批判家の防衛は「批判」です。不安のところはそのまま不安でよいでしょう。恥があることもよくあります。不安や恥を感じないために言ってくれている、つまり、実はクライエントのことを心配してくれているのです。感情のところには「愛情」です(「傷ついた子どもの自分」がいることもあります)。つまり、愛情が根底にあるものの、不安や恥が高じて守り方が過剰になっているのだと見なすことができます。
これに対してインナーディフェンダーないし火消人の防衛は「反論・議論」です。批判家の批判に対して抗議することで守ろうとしているのです。不安のところは攻撃や非難への不安や心の痛み、恥などが来ることが多いです。感情のところには傷ついた子どもの自分のさまざまな感情(怒り、哀しみ、寂しさ、愛着欲求、恐怖など)が来ることが多いです。
Jon Fredrickson(2020)は、自責や自罰傾向の強いクライエントは、自身の自己攻撃の防衛を外界に投影し、さらにその投影された自己攻撃に対してアクティングアウトすることがあると指摘しています。彼はこの現象を1つの葛藤の三角形を用いて説明します。しかし、僕はそういう見立てが適切な場合もあれば、上記のように2つの三角形を用いた方がわかりやすいケースもあると考えています。
ちなみに、このような2つの三角形を用いた内面の見立ては、実際の親子療法・家族療法にも応用可能です。批判する立場の親御さんの根底に愛を想定し、批判されて反抗やひきこもりで応戦する子の内面に傷ついた気持ちを想定することで、より効果的に臨床を組み立てることができるかもしれません。また、そのような実際の親子の対立は、もちろん親側の内面にそっくりそのまま存在することもあるでしょう。個人の内界と外界の実際の人間関係の両方に、2つの三角形を用いた見立ては役に立つのです。
4.投影の三角形Triangle of Projection(TOP)
投影の三角形は、①自分(Self)とインナーメッセージの送り手(Sender)の二重の意味を持ったSのコーナー、②インナーメッセージの受け手(Receiver)と感情的なリアクション(Reaction)の二重の意味を持ったR、③鏡としての他者(Mirror)を表すMの、3つのコーナーを持つ逆三角形です。
これは、主にクライエントさんが投影を起こしている時に、どの方向に投影が起きているかを考え直す時に使えるツールです。ホームワークのひとつとして提案することもできます。
通常、人は投影している時、特に自己批判的なインナーメッセージを自分自身に言っている時、そのメッセージの「送り手」は「他者」だと思いがちです。でも、実際には他者はそのようなことは考えても言ってもいないとしましょう。すると、このケースでの「他者」とは、実はインナーメッセージの送り手である自分自身(S)の姿を映し出す鏡(M)であることになります。
投影が起きている時はその事実に気が付けなくなりますから、通常、僕たちはインナーメッセージの送り手は他者だと思い込んでいて、自分はそれを言われた側の「受け手(R)」であると思い込んでいます。そして、その他者からの批判に対して感情的なリアクション(R)を感じたり返したりするものです。
つまり、こういう投影の場合は、人はRのコーナーから反応します。Sのインナーメッセージの送り手である自分自身には気づいていません。ただ外界の他者Mから批判されていると感じるのです。
でも、他者は鏡ですから、実際にはM鏡の他者に言われていると思っていることは、S自分自身に言われていることなのです。
逆に、自分自身が送り手で、M鏡の他者に対して批判的になってしまうこともあります。この場合も、実はM鏡の他者に対して言っていることは、実は自分が自分自身に言っていることも多いです。
いずれのケースも、M鏡の他者はあくまで鏡であり、自分との関係を映し出す存在です。だから、その他者を変えようといくらがんばっても、「のれんに腕押し」で無意味になるのです。
このような複雑な心の動きについて自分で整理し直してみる時、投影の三角形は役立ちます。
これを読む方はおそらく少数かと思われますが、僕のインスピレーションをいつか形にしたいと思ってきましたので、皆さんで建設的で生産的な議論ができればとてもうれしく思います。また、これはかつて著作権関連のことで認識不足・確認不足・コミュニケーション不足からトラブルを招いた過去の自分に対してのけじめでもあります。
もし、僕のこうした発想や考え方にご批判や注意点があると思われた方は、ぜひお問い合わせフォームからご連絡ください。真摯に対応させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
また、もっとこうした視点を臨床に活かしたいという方は、お問い合わせフォームからご連絡ください。ぜひ一度お話しましょう!それでは。
参考文献
Jon Fredrickson『Co Creating Change』Seven Leaves Press,2013
Susan Warren Warshow『A Therapist’s Handbook to Dissolve Shame and Defense』Routledge,2022
James M. Donovan『Short-Term Object Relations Couple Therapy』Routledge,2003
Leigh McCullough Vaillant『Changing Character』Basic Books,1997
Leigh McCullough Vaillant『Treating Affect Phobia』Guilford Press,2003
Jay Earley『Conflict, Care, and Love Transforming Your Relationship Patterns』2014
Jay Earley『The Pattern System』